• 8月7日(木) 国際奉仕委員会 卓話「人間中心設計の考え方に基づくサービス設計」

     紹介:国際奉仕委員会 菅原 正行 委員長

    菅原委員長

    皆さま、こんにちは。国際奉仕委員会の菅原です。本日、卓話を行って頂きます小林大二先生のプロフィールをご紹介させて頂きます。

     

    小林様は、慶應義塾大学 理工学研究科 管理工学専攻で博士(工学)を取得されており、人間工学を専門で研究されております。

     

    職歴と致しましては、1998-2005 東京理科大学工学部第一部経営工学科助手、2005-2008 日本橋学館大学 心理臨床専攻 専任講師 2008-現在 千歳科学技術大学 総合光科学部 グローバルシステムデザイン学科 准教授としてご活躍されております。本日のテーマにつきましては、「人間中心設計の考え方に基づくサービス設計」と題して卓話を頂きます。それでは小林先生、よろしくお願い致します。

     

    小林准教授ご挨拶

    地元の千歳科学技術大学から来ました、小林と申します。本日はお招き頂き、有り難うございました。本日は私が大学で何を教えているのか、その一端をご紹介したいと思います。それでは早速始めていきたいと思います。

     

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    ※プレゼンテーションを行う、小林准教授です。

     

    本日は、私が大学で教えていることをお話しします。「人間中心設計の考え方に基づくサービス設計」という、少し長いタイトルを付けさせて頂きましたが これは、人間工学の概念を説明するためのものです。

     

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    ※当日のスクリーンショットです。クリックしてご覧下さい。

     

    まず、サービスを含む製品の提供と価値の共創についてです。

     

    一般的にサービスや製品を提供する供給者は、そのサービスや製品を受けとる顧客から利益(価値)を受け取ります。顧客は、お金(価値)を支払うことでサービスや製品を利用する価値を受けとります。この、価値を共に創るプロセスが価値の共創ということになります。北海道で例えると、観光のサービス化が発展するキーワードになると思います。

     

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    次に、品質特性について。特性とは、そのものを識別するための性質のことです。特性には、物質的特性と呼ばれる機械的、電気的、化学的、生物学的なものがあり、同様に感覚的特性として嗅覚、触覚、味覚、視覚、聴覚によるものがあります。さらに行動的特性とされる礼儀正しさ、正直、誠実もあります。また、飛行機の最高速度のような機能的特性もあります。人間工学的特性はというと、それは疲労や身体的負荷など生理学上の特性や、人の安全に関するものになります。

     

    これらの特性の集まりが、顧客のニーズや期待を満たす程度のことを「品質」といいます。品質特性は国際標準化機構(ISO)では9000シリーズ、日本工業規格(JIS)でQ9000とされています。

     

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    人間工学とは何か?ということですが、従来の一般的な工学は、ものづくりの観点に立ったもので、世の中にまだない新しいものを作る技術、物質的機能的特性を向上させる理論と技術でした。それはより軽く薄く速くという「軽薄短小」や多機能化、高性能化を志向していました。これに対し人間工学は、国際人間工学連合(IEA)の規定によると「人間の安寧とシステムの総合的性能との最適化を図る理論と技術」です。例えば、ものすごく高性能な製品があっても、使い方が分からずにいる高齢者、体が不自由で使いにくく使えないという人などもいます。高性能な新製品でもより多くの人が、より簡単に分かりやすく楽しく快適に使えて、使い方を間違ったりせずに安全に健康に使えるというのが、「ものやサービス」を使いやすくするための理論と技術です。つまり、感覚的・行動的・人間工学的な特性を向上させる理論と技術ということになります。

     

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    ISO9000、JISQ9000による製品の種類で千歳科学技術大学の学科構成との関係を説明してみましょう。応用化学生物学科では、燃料や潤滑油、冷却液など「素材製品」、エンジン機械部品や光通信ケーブル、タイヤなど「ハードウエア」の領域とユーザーインターフェースを含まない「ソフトウエア」が対象となります。ソフトウエアとはコンピュータープログラム、辞書、エンジン制御ソフトなどです。電子光工学科は、素材製品にも及びますが主にハードウエア、そしてユーザーインターフェースを含まないソフトウエアの領域です。これらに対し、グローバルシステムデザイン学科は素材製品を含みませんが、ハードウエアの一部とユーザーインターフェースを含むソフトウエア、さらに輸送やマニュアル、セールスマンの説明など利用者への「サービス」の領域が入ってきます。

     

    言い換えると、応用化学生物学科は素材の高性能化など、電子光工学科は中身、グローバルシステムデザイン学科は製品の表面にあり直接手で触れるボタンやカバーなどということになります。

     

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    人間中心の設計は、サービス工学において必要な考え方です。人間中心の設計とは、使う人(ユーザー)の要求事項に焦点を当て、人間工学などの知識と手法を用いてユーザーにとって使いやすく、役に立つ対話型システムを開発するための手法(取り組み方)です。ポイントは①開発に当たり、提供するシステムによる価値を享受するステークホルダーを参画させること②ユーザーの要求を満たしているか評価し改善するPDCA(プラン・ドゥー・チェック・アクト)サイクルを回すこと③評価にユーザーの有効性、効率性、満足度の視点を入れるなど開発過程に人間工学的配慮をすることです。

     

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    千歳市の観光ルートを作るのに人間中心設計の考え方を導入した場合、顧客や観光客などさまざまなユーザーのニーズに応えるというユーザビリティーの観点から考えます。想定されるユーザーの特性として高齢者、若年者、夫婦、子供、家族連れ、障害のある人、外国人などを考え、ユーザーの観光目的、使用状況となる季節や天候などを考慮。観光客の目的が達成されるか(有効性)、効率的に目的を達成できるか(効率性)、満足度は高いか(満足度)といったことです。そして観光ルートの開発過程では、試作→評価実験→問題点の抽出→改善、のPDCAサイクルを回して、観光客のニーズを満たすルートを開発することになります。

     

    ご清聴ありがとうございました。人間工学と言う分野をなかなかご存知で無いと思いますが、これからの技術社会において非常に重要なキーワードかなと思います。皆様ぜひ、宜しくお願い致します。

     

    謝辞 藤本 敏廣 会長

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    本日は誠に有り難うございました。事前に資料を貰い、中身を見ましたが、なかなか書いてある事を理解出来ませんでしたが、先生の説明を聞くと、とても分かり易かったです。本日はお忙しい中貴重な卓話を頂き、有り難うございました。

     

    引き続き、大西信也会員より卓話を頂きました。

     

    大西委員長

     

    台湾で狂犬病が発生した事例について

     

    今年7月、52年振りに台湾で狂犬病が発生したことがテレビ報道もされましたが、それ以降一般的にはあまり関心を持たれず、いわゆる対岸の火事程度にしか思われていないようです。台湾は日本と同じ島国であり、世界的に見ても狂犬病の発生の無い数少ない国であり、また日本の農林水産省の指定する、狂犬病清浄国の一つでした。条件的には、日本と非常に似ている為、今後日本でも発生する可能性を秘めています。日本もかつて狂犬病発生国でしたが、1957年に、広島県の猫の発生を最後に狂犬病の発生はありません。この間、ヒトで3件の発生がありましたが、全て海外で感染して、国内で発症したもので、全て単発の症例です。

     

    そもそも狂犬病とはどんな病気なのでしょう。名前を知っている人は多いのに、見たことのある人はほんのわずかで、その名前からイヌの病気だと思っている人も、決して少なくないはずです。名称が狂犬病だからそんな勘違いも起きてしまいがちですが、全ての哺乳類に感染し、発症すれば、100%死亡する病気です。日本におけるヒトでの発生は、前述したように1970年に、ネパールで感染した1例と、2006年フィリピンで感染した2例の計3名が報告されているに過ぎません。しかし世界的に見れば、高い発生数で定着しており、WHOが行った2004年の再評価によれば、世界での狂犬病による死者数は年間55,000人と推定されています。さらにそのほとんどはアジア(推定31,000人)とアフリカ(24,000人)だと言われています。

     

    国内で蔓延していた狂犬病は撲滅され、さらに狂犬病検疫が厳しくなった今、常識的には狂犬病の侵入はないと思われますが、一方で、密輸や外国船舶に同乗してきたイヌ、積荷にまぎれて侵入した小動物など、侵入門戸が無い訳ではありません。ここで重要なことは、仮に発生があっても、国内のイヌの予防注射による免疫獲得数が70%を超えていることです。免疫獲得数が70%を超えていると、発生しても感染を継続することができず、蔓延せずに終了してしまうと言われています。しかし今の日本はどうでしょう。確かに接種数を登録数で割ると70%以上の数字が出てくるのですが、登録数自体には、未登録犬が含まれませんし、死亡しても登録抹消もされていないのが現状です。むしろ大まかな数字ですが、世界レベルで考えると、人口の約10%前後のイヌがいるようなので、これを根拠にするとワクチンの接種率は約40%そこそことなり、必要免疫獲得数の70%にはほど遠い数となってしまいます。これでは一旦発生すると、蔓延する可能性も否定出来ません。

     

    ヒトの場合は、狂犬病発症動物による咬傷事故による感染は、咬傷事故以降でも、早急な対応が出来れば、暴露後免疫処置(咬傷事故以降に免疫グロブリンと、定められた回数のワクチン接種)をすれば、ほとんどの場合発症を未然に防ぐことが出来ます。しかしながら、免疫グロブリンは、現在までのところ、日本では製造も輸入もされたことがありません。イヌの場合はどうでしょう。イヌの咬傷によるイヌの暴露後免疫に関するデータによると(イヌ以外の動物のデータはありません)、イヌに暴露後免疫は、ほとんど効果がない上に、ほとんど全頭が発症するようです。もし仮に日本で狂犬病が発生した場合、予防注射を受けていないイヌが、狂犬病を発症したイヌに噛まれた場合、残念ながら何もしてあげることが出来ません。

     

    いつ日本も台湾のように狂犬病が侵入することになるかもしれません。その時の為にも、全てのイヌが狂犬病の予防注射を受けておくことが必要です。台湾のケースは、決して対岸の火事ではありません。安全神話の日本へ対する警告です。